ミスター・サタンを英雄にしたもの
自分が『ドラゴンボール』のバトルにおいて特にベジータ戦が好きだということは以前に書きましたが(関連記事:ベジータは誰に敗れたのか?)、同じような理由で最後の魔人ブウ戦も大好きです。
悟空・ベジータ・デブブウ・サタンとそれぞれが個性を活かし、作品の象徴とも言えるドラゴンボールの願いを上手く使い、人々の思いを込めた元気玉で決着を付けるという展開が非常にアツく。何より、最後の最後でミスター・サタンを本物の英雄にしてしまうところが『ドラゴンボール』が名作たる所以だろうなーなんて思うのです。
さて、そんな魔人ブウ戦ですが……
実は兼ねてからずっと疑問がありました。
展開を簡潔に説明すると……
界王さまの力を使って、ベジータが地球人全てに元気玉の協力を呼びかける
→身内が協力してくれる
→それでも全然足りず、悟空が叫ぶ
→幼少時代に悟空が救ってきた人々が協力してくれる(17号のコマは元々はランチさんだったという説がありますよね。僕もそっちの方がしっくり来ます)
→それでも全然足りない
→悟空たちの言葉を信じない地球の人々と、時間稼ぎで魔人ブウにボロボロにされるベジータを見て、ミスター・サタンが地球の人々に怒り叫ぶ
→ミスター・サタンの言葉を信じた人々の力に依って元気玉が完成!
自分も物凄く大好きなシーンですし、少年漫画史に残る名シーンだと思うのですが……
「ん?」と思うところが。
悟空もミスター・サタンも同じ“天下一武道会優勝者”なのに、この扱いの差は何?
元チャンピオンと現役チャンピオンの人気の違いというだけでなく……悟空達がかつて活躍した第21~23回の天下一武道会では“技”として普通に認識されていたかめはめ波や舞空術が、魔人ブウ編での天下一武道会(第25回大会?)の時代には「何だアレ?」「トリックじゃないか?」と言われているという。
ちなみに、第23回大会から魔人ブウ編での大会(第25回?)の間は17~18年。
リアルタイムに読んでいた頃は自分は小学生だったため、「17~18年も経っているからみんな忘れちゃったんだろうな」と思っていたのですが……30歳近い今からしてみると、17~18年前なんてそんなに昔じゃないですよね。
喩えば、サッカーの世界で約20年前に大活躍していたマラドーナは今でも“英雄”として崇められていますし。野球の世界でもっともっと昔の「V9時代の巨人は凄かったんだ」的な話をするオジサンは沢山います。
ゲームの世界もファミコン黎明期の思い出話は沢山拝見出来ますし、アニメの世界も30年前の初代『ガンダム』のように未だに語り継がれている作品は少なくないですし、漫画で言えばそれこそ未だに『ドラゴンボール』について語っているウチのようなブログがあるワケです。
どうしてみんな、悟空たちのことを忘れてしまったの?
審判のオジサンのように「キミたちがいない武道会はレベルが低かったよー」と言っている人がいたくらいなんですから、「第22回大会のレベルの高さからすれば、ミスター・サタンなんか全然しょべえよ!」「うるせえ!懐古厨は死ね!」みたいなやり取りがあってもおかしくないはず。
ミスター・サタンがセルを倒し「セルの使っていた技はトリックだ」と言っていることに、「前の天下一武道会では普通に使われていた技だよなぁ」と思う人が出てきてもおかしくないはず。
悟空たちが参加していた第21~23回の天下一武道会と、その後の天下一武道会では根本的に何かが変わってしまったのでは??
そんな疑問から、今日の記事を書こうと思いました。
![]() | ドラゴンボール 天下一大冒険 バンダイ 2009-07-23 売り上げランキング : 292 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
1.テレビカメラの存在
そう言えば、ミスター・サタンの初登場シーンはテレビの中でした。
直接面識がないっぽいヤムチャが「格闘技のチャンピオンですよ」と言っていたくらいなので、“テレビの中での有名人”だったのでしょう。セルゲームにもテレビカメラは帯同していましたし、魔人ブウ編での天下一武道会にもテレビカメラがありました(ピッコロが全部壊しちゃったけど)。魔人ブウ討伐にも、途中までテレビカメラが付いてきていましたね。
ミスター・サタンは“テレビの中のヒーロー”だったのではないか。
対照的に、第21~23回の天下一武道会はテレビ中継されていなかったのでは?
単にテレビカメラが描かれなかっただけというワケではなく、幾つかそう思う根拠があります……第22回大会の決勝、天津飯vs悟空の試合をヤムチャはラジオで観戦しているというシーンがあります。テレビ中継されていたのなら、テレビで観ますよね。
また……悟空は12歳ながらにして第21回大会で準優勝しましたから、15歳になった第22回大会は“優勝候補の筆頭の一人”と認識されるのが普通ですよね。にも関わらず、チャパ王にしてもパンプットにしても見た目だけで悟空を「ただの子どもだ」と油断してやられてしまうのです。
もし天下一武道会がテレビ中継されていたり、ビデオ化されて映像として残っていたりしたのなら……こういうことは起こらなかったと思うのです。
2.観客席の変化
第23回大会でピッコロが会場を吹っ飛ばしてしまったせいもあるんですが……
魔人ブウ編の天下一武道会(第25回大会?)は観客席が階段状になっていて非常に見易そうな観客席ですよね。それとは対照的に、第23回までの天下一武道会の観客席は酷いです。塀があって、その周りで立ち見するだけ。
後ろの方の人は何が起こっているかサッパリ見えませんし(だからランチさんが銃ぶっ放して最前列を確保しようとした)、観客動員なんて最初から考えていないとしか思えません。
観客が沢山入るということは、それだけ運営側の収入になります。
入場料を取っているかどうかは微妙ですが、観客の数だけ会場での出店の売上げは伸びますし、その内の数%のマージンが運営サイドに入るという見方も出来ます。第23回大会まではそんな当たり前のこともやっていなかったのですから、商業目的の大会とは考えられていなかったのかも知れませんね。
3.賞金の大幅アップ
第21回と第22回大会の優勝賞金は50万ゼニーでした(第23回大会は悟空が逃げてしまったので、恐らく賞金は受け取っていないのでは)。
それに比べて、魔人ブウ編の天下一武道会は優勝賞金1000万ゼニー、2位が500万ゼニー、3位300万ゼニー、4位200万ゼニー、5位100万ゼニー。少年の部も優勝1000万ゼニー、2位500万ゼニーです。
物価はどうなってしまったのか。
学校や警察は普通に機能しているのだから、深刻な政治不安が……というワケでもなさそう。
単純に“賞金が上がった”ということなのかなーと思います。賞金を上げる理由は、シンプルに考えれば“より多くの出場者を募ることで大会を盛り上げたい”ということですよね。ちなみに、Wikipediaによると魔人ブウ編以降の天下一武道会はミスターサタンがスポンサーになっているとか。公平性も屁ったくれもないな。
思うに、第23回までの天下一武道会は“権威”や“名誉”のある大会ではあったものの、伝統を重んじすぎてテレビ中継をしたり多額の賞金を用意したりということはしなかったのではないでしょうか。そのため、優勝者の名前ですら“知る人ぞ知る”マニアックな大会だったのではないかと思います。
しかし、第21~23回大会で状況は変わってしまいます。
第21回大会では悟空が建物を破壊してしまいますし、第22回大会では天津飯が武舞台を吹っ飛ばしてしまいますし、第23回大会ではピッコロが周り中焼け野原にしてしまいます。元々儲け主義ではない天下一武道会も、会場の建て直し資金等で大会運営の危機に瀕したのではないでしょうか。
また、大会のレベルが上がりすぎたことや、第23回大会では観客にまで危うく被害が及ぶところまで行ってしまい。大会参加者や観客の数も減少してしまったのではないかと推測できます(ミスター・サタンが優勝した回から魔人ブウ編までにしばらく開催されていなかったというビーデル談もあります)。
そのため、天下一武道会を商業化せざるを得なくなった―――
それが、変わり果てた魔人ブウ編の天下一武道会(第25回)だったのではないでしょうか。
・テレビカメラを入れることで放映権収入&DVD化などの映像コンテンツ収入
※ 試合数の増加もこの狙い?
・大量の観客を入れることで収入アップ&地域活性化
・賞金の大幅アップ&少年の部の設置は幅広い参加者を募り、宣伝文句にもなる
ミスター・サタンが有名になったのが天下一武道会(第24回大会?)なのか他の大会なのかは分かりません。個人的には、ヤムチャが「格闘技の世界チャンピオン」と言っていたことから、天下一武道会を優勝したことはそれほど有名ではなく、天下一武道会以外のテレビ中継をされている大会で優勝して有名になったと想像するのですが……
いずれにしても魔人ブウ編の扱いを見る限り。
映像コンテンツとして肥大化した天下一武道会を盛り上げる役目として、ミスター・サタンが過剰なまでに英雄扱いされてしまったのかなーと思うのです。「セルを倒した英雄」なのだから、その資格は十分にあるだろうと(ただ、一般的にはセルは単なるトリック使いと認識されているのだろうけど)。
そう考えると……ミスター・サタンのことをバカには出来ませんよね。
大会を盛り上げるためにメディアに異常なほど持ち上げられて、その期待に応えられなかった途端に「んだよ。すげー期待ハズレだよ!」と袋叩きにされる―――そういうスポーツ選手を僕達はごまんと見てきたはず。
人々の期待を背負い、作られた“英雄”としての仮面を被り続け、“英雄”として振る舞い続けなければならなかった存在―――ミスター・サタンのことを「ウソツキ」だとか「見栄っ張り」だとか「単なるバカ」だとか言う資格が、果たして僕らにあるのだろうかと思ってしまいます。
「テレビが常に真実を伝えるワケではない」
あの時代にそれを描いていた鳥山明の偉大さを感じるとともに、
「真実だけが世界を救うワケでもない」
と、物語を締めくくった意味もまた深く考えさせられます。
![]() | Carddass ドラゴンボール コンプリートボックス vol.1 premium バンダイ 2008-12-26 売り上げランキング : 555 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
| 漫画読み雑記 | 19:56 | comments:12 | trackbacks:0 | TOP↑
やまなしレイ(管理人)(11/30)
VIPな5まとめっさん(11/28)
ああああ(11/27)
やまなしレイ(管理人)(11/15)
ああああ(11/12)
やまなしレイ(管理人)(11/10)
ああああ(11/09)