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『鳴かせてくれない上家さん』全3巻紹介/マージャンがある高校生活と、ちょっとのラブコメ!

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<画像は『鳴かせてくれない上家さん』第1巻より引用>


【これさえ押さえておけば知ったかぶれる三つのポイント】
ゲームのマージャンとはちがう、実際に人と集まって打つとはこういうことだ!
大会に出るとかではない、「いつも同じメンバーとマージャンを打つ」日常を描く
マージャン×ラブコメは、どちらも「相手の気持ちを考える」ので実は相性が抜群


【紙の本】


【キンドル本】




【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:×
・恥をかく&嘲笑シーン:△(嘲笑ではないけど、仲間内で恥をかくシーンはある)
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:○(ギャグのように描かれてるけど竹原→上家はガチ)
・BL要素:×
・ラッキースケベ:△(勢い余って密着するタイプの、羨ましい)
・セックスシーン:×


↓1↓

◇ ゲームのマージャンとはちがう、実際に人と集まって打つとはこういうことだ!

 この漫画は、KADOKAWA・メディアファクトリーブランドの「月刊コミックフラッパー」にて2020年~2021年に連載されていた学園ラブコメです。全3巻で完結済。

 タイトル『鳴かせてくれない上家さん』の「上家さん」はヒロインの名前で、「かみやさん」と読みます。ただ、マージャン用語で「上家」と書けば「カミチャ」と読み、「自分より一つ前の順番の人」という意味があります。『古見さんはコミュ症』みたいなカンジで、上家(かみや)さんが上家(カミチャ)に座っているという言葉遊びですね。ややこしいわっ!

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<画像は『鳴かせてくれない上家さん』第1巻より引用>

 ということで、マージャンを題材にした学園ラブコメ漫画です。
 年末に私は、キンドル本の新刊『マージャンも打てる!~超初心者のための麻雀講座~』を発売しました。このブログを読んでいる人は全員買って読んでくれていると思うので、マージャンに興味を持ってくれる人も増えたこのタイミングで、マージャンを題材にしたオススメの漫画を紹介します。

 「そうは言っても、まだ2章までしか読んでいないから全然マージャンのことが分からないや……」という人でも大丈夫だと思います。
 マージャンに一切興味がなくて、私が書いた本も読んでくれなかった母に、この漫画を読ませたところ「面白い」と言ってくれました。マージャンが分からなくてもラブコメとして読めると思いますし、むしろラブコメ目当てで読んで、マージャンに興味を持ったらそこから私の本を買って読んでくれてもイイんですよ!(宣伝)


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<画像は『鳴かせてくれない上家さん』第1巻より引用>

 主人公は、ひたすら一人でゲームのマージャンをプレイしていた麻野イサムくん、高校2年生です。学校でも一人(Wi-Fiが入るという理由で)階段に座って、マージャンのネット対戦を続けていたところ……部長が怪我をしてしまい、3人しかいなくて困っていた麻雀部に誘われます。
 麻雀部のある高校! 全自動麻雀卓もある! そして、美少女が4人も在籍している! 何その羨ましい環境!


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<画像は『鳴かせてくれない上家さん』第1巻より引用>

 同じマージャンではありますが、「ゲームで遊ぶマージャン」と「リアルに人が集まって遊ぶマージャン」では勝手がちがいます。ゲームのマージャンを遊びこんでいた主人公も、リアルなマージャンは初めてで、そのちがいに戸惑います。対戦相手は話しかけてきて、こちらの顔を見てきて、うっかりしているとどんどんどんどん進行していってしまうのです。そうした「ゲーム」と「リアル」のマージャンのちがいを描くところから始まっています。


 私は自分の本に、「この本を読めばゲームのマージャンくらいならすぐに打てるようになります」と書きました。「ゲーム」と「リアル」でマージャンが別物なら、ゲームでだけ打てても意味がないんじゃない? と思われるかも知れません。

 ですが、だからこそ私は「ゲームでだったらマージャンが打てるようになった皆様」にこの漫画をオススメしたいんですね。「ゲームのマージャン」は、「リアルのマージャン」を一画面に収めたものです。それもすごいことなんですが、ゲームだけだとどうしても「人間に対して麻雀卓はどのくらいの大きさ」だとか、「4人がどんな風に座っているのか」とか、「どんな動きで牌を捨てているのか」とかが描かれません。

 そういう「ゲームのマージャン」では省略されてしまう「リアルのマージャン」のサイズ感が、この漫画だと分かりやすく描かれているんですね。「ゲームでならマージャンが打てる」となった人の、次のステップとしてオススメです!


↓2↓

◇ 大会に出るとかではない、「いつも同じメンバーとマージャンを打つ」日常を描く

 「マージャンの漫画」は既に世にたくさんあります。「近代麻雀」なんていう、マージャンの漫画に特化した雑誌まであるくらいですからね。

 私も流石にマージャンの漫画全般に詳しいワケではないのですが……たくさんあるマージャン漫画の中で、この漫画の立ち位置は「初心者に向けて」「マージャンをやってみたいと思わせられるような作品」を目指して描かれたそうです。
 なので、この漫画―――大会に向けてがんばるぞとか、命を賭けた真剣勝負とかではなく、放課後いつも(ほぼ)同じメンバーで集まってただ楽しくマージャンを打っているだけなんですね。でも、そこがイイのです。


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<画像は『鳴かせてくれない上家さん』第1巻より引用>

 私の高校にはマージャンの部活はありませんでしたが、こんな風にマージャンをいっしょに打てる友達がいる高校生活(そして放課後にマージャンを打っても怒られない環境)って最高だなーと思わせてくれるんですね。


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<画像は『鳴かせてくれない上家さん』第2巻より引用>

 ただひたすらマージャンを打つだけじゃなくて、昼の学食とか。


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<画像は『鳴かせてくれない上家さん』第2巻より引用>

 朝の通学バスとか。
 高校生活の中に「マージャンのことを話せる友達」が溶けこんでいるのが、すごく楽しくて、すごく羨ましいんですよね。俺もこんな高校生活を送りたかった!



 また、監修にMリーグ(2018年から始まったマージャンのプロリーグ)のプロ雀士:内川幸太郎さんが就いていて、各話の終わりには「その回に出てきた役などの解説」が1ページで詳しく書かれています。私の本の解説と読み比べてみるのも、マージャンを多角的に知れて面白いと思いますよ!

・役牌
・字一色
・ドラ
・清一色
・四暗刻
・チーとポン
・ロンとツモ
・七対子
・天和
・リーチ
・カン
・チャンタ・純チャン・タンヤオ
・河について
・メンタンピン
・何切る問題
・フリテン
・絞り

 別にマージャン入門書ではないので、初心者が覚えられる順番ではないと思いますが(2つ目が字一色とは!)……これらの役が出てくるように話を作り+もちろんお話としても面白くなるように描かなくちゃならないんだから、ストーリーを練るのも大変だったろうと思います。


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<画像は『鳴かせてくれない上家さん』第2巻より引用>

 難点は「もっとこの日常を見ていたい」と思うところで終わってしまうことです。
 「これから色々イベントがあります」と言いながら、夏合宿はやったけど、文化祭まで届かずに終わってしまいました。お話としてはキレイに完結しているとは思うんですけど、もっともっと彼ら・彼女らの日常を見ていたかったと思ってしまいます。

 麻雀部って文化祭は何やるんだろう……
 そもそも、対外試合とかもあるんだろうか。毎日同じメンバーでひたすらマージャンを打っているだけなんだけど、それで部活って成り立つものなのかな。


↓3↓

◇ マージャン×ラブコメは、どちらも「相手の気持ちを考える」ので実は相性が抜群

 この漫画のヒロインは3人―――

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<画像は『鳴かせてくれない上家さん』第1巻より引用>

 一人目はタイトルにもなっている上家(かみや)サクラさん。
 主人公の1コ下で、明るく元気な巨乳キャラです。

 マージャン始めて1ヶ月の初心者ながら、主人公を麻雀部に引き込んだ、麻雀部のムードメーカーですね。タイトルの『鳴かせてくれない』とは、マージャンの用語で「ポン・チーをさせてくれない」という意味で、何故か主人公はこのコからポン・チーが出来ない(欲しい牌を捨ててくれない)のです。
 チーは特に自分の一つ前の相手からしか出来ないため、この上家さんがチーをさせてくれないことで主人公はなかなか勝てません。


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<画像は『鳴かせてくれない上家さん』第1巻より引用>

 二人目は、筒井マドカさん。
 主人公は気付いていなかったけど、主人公と同じクラスの黒髪ロングのお嬢様タイプです。上家さんとちがって薄着ではないため目立ちませんが、彼女もかなりの巨乳。

 こどもの頃から家族でマージャンをしていたため、リアルな牌の扱いに慣れているし、強いです。


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<画像は『鳴かせてくれない上家さん』第2巻より引用>

 三人目は竹原スズメさん。
 上家さんの幼馴染で、彼女も小学生の頃からマージャンを打っている実力者です。そして、上家さんのことが大好きで、上家さんのことを何よりも優先するタイプのキャラです。ありがとうございます、ありがとうございます。

 なので(?)、主人公のことを敵視してくるのが緊張感あってイイですね。



 「筒井」「竹原」と来たから、あと1人いるのではと思った人は鋭いですね。「筒=筒子(ピンズ)」、「竹=索子(ソーズ)」のことなので、あと1人「萬田」先輩という人物がいます。ですが、登場巻の前の巻の予告にシルエットしか載っていないので、これから読む人には姿は見せない方がイイのかなと思い、ここには載せません。



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<画像は『鳴かせてくれない上家さん』第1巻より引用>

 そして、何か背景によく映っている猫:コータロー(♂)!
 近所の飼い猫が、部室にふらっとやってきてマージャンをしている4人の周りをうろうろしたりするという。主人公には懐いているが、上家さんにはあまり懐いていません。この猫の、かわいいんだけどちょっと憎たらしいカンジがイイんですよ!



 さてさて。
 ラブコメが心理戦であることは、『からかい上手の高木さん』(2013年~)や『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』(2015年~)といった作品達が明白化してしまったと思います。「相手が自分のことをどう思っているのか」と相手の心理を読んでいるのを、読者は神の視点で見られるのがラブコメの面白いところなんですね。

 そして、マージャンとは―――「相手の心理を読む」ゲームです。
 まだ私の本の序盤を読んでいるという人には難しい話になってしまいますが、相手にロンされないために「相手が何を集めていて」「何を欲しがっていて」「何を捨てちゃダメなのか」と、相手の気持ちになって考えることが重要なんですね(格闘ゲームで言う、ガードのタイミングをはかるみたいな話)。

 主人公が上家さんからポン・チー出来ないのも、麻雀部の面々に勝てないのも、彼女らの心理を読めていないから―――ラブコメ的な文脈で説明すると、まだ彼女らの個別イベントを通っていないからなんです! だから、彼女らをラブコメでもマージャンでも攻略できていないんですね。


 つまり、ラブコメもマージャンも似たようなものなんですよ!

 実際、ラブコメとマージャンの相性の良さに気付いている人は少なくなくて、去年1巻が発売された『一色さんはうまぶりたいっ!』なんかも「ラブコメ×マージャン」漫画ですね。
 こちらは「マージャンが超上手い先輩(男)」に近づきたくて、初心者ながら頑張ってマージャンをうまぶろうとしている女のコのラブコメです。こちらの方がより高度な心理戦ですが、ある程度マージャンが分かっている人向けの作品だと思われます。




 これらの作品の弱点は「マージャンが分からない人」にとってはハードルが高く、「自分には関係ない作品だ」と手に取ってもらえないところです。実際、『上家さん』も『一色さん』も、マージャンをまったく知らない人が読んでマージャンが打てるようになる漫画ではありません。
 でも、今はもう、このブログを読んでいる人は全員『マージャンも打てる!~超初心者のための麻雀講座~』を買って読んでいるはずなので(二度目)、すぐにはムリかも知れませんが、少しずつマージャンのことも分かるようになってこれらの作品に対するハードルも下がってくるでしょう。

 特に『上家さん』はマージャンが分からない人でも楽しめると思うので、『上家さん』を読んでラブコメとして楽しんで、『マージャンも打てる!』を読んでマージャンを学んでから、『上家さん』をもう1回読めば「ここの場面はこういう意味だったのか」とマージャン部分も分かるようになって二度楽しめると思います!



◇ 結局、どういう人にオススメ?
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<画像は『鳴かせてくれない上家さん』第3巻より引用>

 ラブコメが好きな人、かつ少しでもマージャンに興味がある人ならオススメです!
 誰もが最初は初心者なんですから、ここからマージャンに入っていっても全然構わないと思います。私の本だったら嬉しいですが、私の本以外にも「初心者がマージャンを覚える一歩目」はたくさんありますからね。この漫画からマージャンへの興味が大きくなったら、お好きな手段でマージャンを覚えていけばイイんじゃないかと思います。

 みなさんの人生に、マージャンが彩りを加えてくれることを期待しています!

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『私を球場に連れてって!』全4巻紹介/少なくとも西武ファンは全員読んでくれ!

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<画像は『私を球場に連れてって!』1巻より引用>


【これさえ押さえておけば知ったかぶれる三つのポイント】
女子高生だらけのきらら漫画、なのにやってることは野球観戦!
舞台は所沢、西武ドームで西武の試合をひたすら観る!何故こんな西武推しなの!?
実在のチーム、選手、試合がモデル。だからこそアニメ化とかは無理なんだよなぁ……


【紙の本】




【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:×
・恥をかく&嘲笑シーン:×(このキャラ達には恥という概念がなさそう)
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:△(序盤は小学生相手に過度な愛情を見せたりもしたが)
・BL要素:△(選手たちでのBL妄想を口走るキャラがいる)
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×


↓1↓

◇ 女子高生だらけのきらら漫画、なのにやってることは野球観戦!
 この作品は芳文社のまんがタイムきららMAXにて、2017年から2021年の間に連載されていた4コマ漫画です。既に完結していて、単行本は全4巻です。

 きらら系の漫画というと、『けいおん!』や『ご注文はうさぎですか?』、『ゆるキャン△』などアニメ化されて大人気になった作品達のイメージで「女子高生(まれに女子中学生)達が、何かの趣味・部活動などにハマる」作品が多いと思われていることでしょう。女子高生がバンドを始めたら『けいおん!』、喫茶店でバイトをし始めたら『ごちうさ』、キャンプを始めたら『ゆるキャン△』みたいに。

 この作品もそうした名作達と同様に、これといった趣味もない地味な女子高生の主人公が、高校入学とともに新しい趣味に出会うというきらら漫画としては王道の展開から始まります。その“新しい趣味”とは―――


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<画像は『私を球場に連れてって!』1巻より引用>

 プロ野球の観戦!

 女子高生である必然性が全然ない!
 この手の「女子高生+特定の趣味」作品って、バイクとか釣りとかキャンプとか、オッサン趣味のものばかりじゃないかと言われることがあるのですが……その最たるものでは!?



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<画像は『私を球場に連れてって!』1巻より引用>

 ただし、きっかけはやっぱりきらら漫画らしい始まりです。
 高校に入学したばかりの主人公が、クラスメイトが言い争っているところに遭遇して、そこからなし崩し的に巻き込まれて球場まで連れていかれる第1話です。「新しい出会い」+「巻き込まれ」+「そこからハマっていく」という超王道展開ですね。

 では、このクラスメイト2人は何を言い争っていたのかというと……
 埼玉に本拠地を構え、鉄道会社が親会社の「ホワイトキャッツ」は貧乏球団なので選手を引き抜かれて、ここ数年ずっと下位に低迷している――――って、これ2017年時点の西武ライオンズじゃねえか!

 一方、福岡に本拠地を構え、豊富な資金力で選手を集めて毎年優勝候補筆頭だけど、昨年は終盤に失速して育成重視のチームに敗れて優勝を逃した――――って、これ2017年時点のソフトバンクホークスじゃねえか!

 つまり、教室に行ったら西武ライオンズのファンとソフトバンクホークスのファンがお互いを罵り合っていたんですね。ふむ、女子高生のよくある日常風景ですね! 何も問題はありません!


 ということで……この漫画に出てくる球団は「架空の球団」と聞いていたんで私は今まで読んでいなかったのですが、「架空の球団」の名前にしているのは権利的にそうしないと危ういからであって、昔のファミスタみたいなカンジで全て元ネタがある球団・球場・選手が出てくるんですね(選手は姿が描かれないし、架空の名前も出てきませんが、明らかに「あの選手だ」と分かる元ネタがある)。


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<画像は『私を球場に連れてって!』1巻より引用>

 例えば、ここのネタ―――
 2021年現在、西武ライオンズの正捕手の森友哉選手のことを指していると思われます。現在は「打てる捕手」として球界随一の選手となった森選手ですが、2014~2016年は「捕手としてはまだ起用できるレベルではないが、打撃を育てたい」チーム方針で指名打者・外野手として起用されていました。2017年シーズンは、いよいよ本格的に捕手として起用されるぞという時期だったのでこういうやり取りになっているんですね。

 こんな風に、実名こそ出てこないんですが、会話の内容は実在のプロ野球のことばかりで、プロ野球ファン(特に西武ファン)は元ネタが分かるようになっているんですね。


 ちなみに、2017年の西武ライオンズの試合日程を見てみると、実際に4月7~9日にメットライフドーム(西武ドーム)でソフトバンクとの3連戦が行われていました。恐らく第1話のやり取りは4月7日の出来事だと思われます。
 ただ、その4月7日の実際の試合で森友哉選手がホームランを打ったワケではありません。というか、出場すらしていません。この2017年シーズンの森友哉選手は開幕前のキューバ代表との強化試合でデッドボールをぶつけられて骨折、8月まで試合に出ることが出来ませんでした。

 掲載時期を考えると、実際の試合が行われる前に漫画が描かれたのでしょう。予定されている年間の試合日程を見て、ちょうどその日がソフトバンクとの試合とのことで「恐らく森友哉選手がホームランを打つだろう」と思って描いたのだと思われます。なら、西武ファン的にはヨシ!


↓2↓

◇ 舞台は所沢、西武ドームで西武の試合をひたすら観る!何故こんな西武推しなの!?

 というワケで、漫画内では別の名前になっていますが、出てくるのは全て実在のプロ野球球団がモデルのチーム達です。

・北海道セイバーズ(元ネタ:北海道日本ハムファイターズ)
・福岡ファルコンズ(元ネタ:福岡ソフトバンクホークス)
・千葉アルバトロス(元ネタ:千葉ロッテマリーンズ)
・埼玉ホワイトキャッツ(元ネタ:埼玉西武ライオンズ)
・宮城ワイルドグース(元ネタ:東北楽天ゴールデンイーグルス)
・大阪ホルスタインズ(元ネタ:オリックス・バファローズ)

・広島レッドスナッパーズ(元ネタ:広島東洋カープ)
・東京タイタンズ(元ネタ:読売ジャイアンツ)
・神奈川ハムスターズ(元ネタ:横浜DeNAベイスターズ)
・関西サーバルス(元ネタ:阪神タイガース)
・東京ラクトパシラス(元ネタ:東京ヤクルトスワローズ)
・愛知スネークス(元ネタ:中日ドラゴンズ)


 「なるほど! きらら系の漫画には女のコがたくさん出てくるから、それぞれ推しの球団がちがうってことかー」と思うでしょう? 少なくとも私は思いました。じゃあ、コミックスの表紙になっている女のコ達が着ているユニフォームを見てみましょうか。これでどこのチームのファンか分かるはずですから。




 埼玉ホワイトキャッツ(元ネタ:埼玉西武ライオンズ)ファン





 埼玉ホワイトキャッツ(元ネタ:埼玉西武ライオンズ)ファン





 福岡ファルコンズ(元ネタ:福岡ソフトバンクホークス)ファン





 埼玉ホワイトキャッツ(元ネタ:埼玉西武ライオンズ)ファン



 4分の3が西武ファンじゃねえか!

 普通こういう作品を描くなら、メインキャラ6人配置してそれぞれをパリーグ1チームずつのファンにするとかしそうじゃないですか? しないんですよ、メインキャラのほとんどが西武ファンなんです、この漫画!

 一応、話が進むと「千葉アルバトロス(元ネタ:千葉ロッテマリーンズ)ファン」と「大阪ホルスタインズ(元ネタ:オリックス・バファローズ)ファン」のキャラは出てきますし、主人公の父親が「東京タイタンズ(元ネタ:読売ジャイアンツ)ファン」だったりはするので、他球団のネタも出てこないワケではないのですが……


 そもそも舞台が埼玉県所沢市ですし、高校から15分のところに西武ドームがある設定ですし、なので頻繁に西武ドームに野球観戦に行くから西武ネタが多くなるしで……マジでこの漫画、西武ファン以外が読んで面白いの???


 でも、西武ファンなら絶対面白いです!
 細かいところでも、これって多分あの選手のことだよなーと分かるのがイイんですね。

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<画像は『私を球場に連れてって!』1巻より引用>

 例えば、ここの1コマ―――
 「2017年シーズンで、高卒2年目の野手」と言えば……後の2021年シーズンに大ブレイクした愛斗選手のことかな、みたいなことが分かるのです。西武ファンなら! 西武ファン以外が読んで面白いかは知りませんが、西武ファンなら面白いはずです!



 「どうしてこんな西武推しなのか」と言ったら原作者の方が西武ライオンズのファンだから―――みたいなシンプルな理由なんでしょうけど。実際に所沢に住む女子高生がプロ野球観戦にハマっていくなら西武ファンになるでしょうし、「友達といっしょに楽しめるから」いっしょに西武ファンになって、西武の話ばかりするのも自然な形だと思います。

 幅広い読者に受けるために、1キャラずつパリーグの6球団のファンに分散させて、全球団のネタを均等に配分するみたいな作為的なことをするより、「女子高生がプロ野球観戦にハマったら」のロールプレイとしては正しい形だと私は思うのです。


 でも、西武ライオンズはあくまで「勝手にモデルにしている」だけですから、当然のことながら「西武ファンにオススメ!」みたいなことを公式で言うことは出来ません。この漫画を楽しめるであろう西武ファンなのに、この漫画を知らない人も―――私もそうでしたが―――たくさんいると思われるので、こうしてファンが勝手に「西武ファンなら読んで!」と言っていくしかないという。


 西武ファンなら読んで!


↓3↓

◇ 実在のチーム、選手、試合がモデル。だからこそアニメ化とかは無理なんだよなぁ……

 きらら系の漫画って、毎クールのように何かしらアニメ化されていることで「簡単にアニメ化されてヒットする」みたいなイメージを持っている人もいるかも知れません。ですが、実際にアニメ化される作品なんて一握りで、大半の作品はコミックス数冊で完結してしまうものです。

 この『私を球場に連れてって!』も全4巻で完結ということで、アニメ化までには至りませんでした。いや、そもそもこの題材はアニメ化など最初から狙っていたら描けないというか……アニメ化なんて不可能な題材なんですよね。
 それは別に実在のプロ野球球団をモデルにしているから、権利者に怒られるとかそういう話ではなく、野球ってやっぱり「時事ネタ」なんですよ。


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<画像は『私を球場に連れてって!』2巻より引用>

 例えば、コレ……
 「ホルスタインズ(元ネタ:オリックス・バファローズ)」が弱いというネタで、この作中時期は2018年のシーズン開幕前なので直近の3シーズンが「5位」→「6位」→「4位」と確かにBクラスで低迷しているので「弱い」と言われても仕方がないのですが。2021年のシーズンのオリックス・バファローズは、9月3日現在堂々の1位です。


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<画像は『私を球場に連れてって!』4巻より引用>

 続いてコレ……
 「アルバトロス(元ネタ:千葉ロッテマリーンズ)」も弱いというネタで、この作中時期は2018年の9月あたりだと思われるので、2017年が6位、2018年が5位だったロッテファンも自虐ネタに走るというものですが―――2020年は2位、2021年のシーズンも9月3日現在、1位に肉薄する2位とかなりの好成績です。


 漫画のネタを考えて、描いて、それが雑誌に掲載されて、それが単行本になって、そこからアニメ化されて―――なんて数年の間に、強いチームと弱いチームが総入れ替えになるのがプロ野球の世界なんですね。
 そもそもこの漫画の序盤、西武ライオンズも「5位」→「4位」→「4位」と3年連続でBクラスに低迷していた時期なので、「キャッツは貧乏で弱小球団」「でも、私達は愛している」みたいなノリで始まっているんですね。でも、そこから2017年は「2位」、2018年は「1位」と強くなっていくため、単行本1巻が出た2018年4月頃には「ダントツ1位を走っているのに弱小球団とか自虐ネタを言っている」という酷いタイムラグが生まれるという。



 「じゃあ、時事ネタを数年遅れで読む価値なんてないの?」とは、私は思いません。

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<画像は『私を球場に連れてって!』2巻より引用>

 この漫画で描かれているのは2017年と2018年の2シーズン―――
 この2シーズンの思い出を、ファン目線でギュギュッと凝縮して詰め込んでいるんですね。

 例えば、↑の試合―――
 現在は千葉ロッテマリーンズの監督である井口資仁選手の現役最後の試合が描かれています(現実だと相手は日本ハムファイターズだったけど、漫画では埼玉ホワイトキャッツと対戦したことになっている)。


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<画像は『私を球場に連れてって!』2巻より引用>

 また、例えばこの試合―――
 この試合は西武ライオンズファンにとっては語り草になっている試合です。
 2018年4月18日の日本ハムファイターズ戦――――この試合は忘れられない試合でしたが、漫画で読んであの日の気持ちを思い出しました。登場人物達といっしょにあの試合を追体験できているみたいで楽しいんですよ。


 ……にしても、3年前の西武ライオンズの面々。秋山と浅村が移籍したことを除けば野手はほぼ今も同じメンバーなのに比べて、投手はカスティーヨとかワグナーとかまったく覚えていないな!どんな投手だったっけ?? 中塚駿太も1軍で投げていたんだ……2016年のドラフト2位選手やで(1位が今井達也、3位が源田壮亮、5位が平井克典というすごい年)。


 とまぁ、こんな風に思い出語りをしたくなる漫画なんですね。
 西武ファンにとっては特に2017年~2018年シーズンは、長らくBクラスに低迷していたチームが強くなっていったシーズンなんで思い入れが強い2年間ですし、ずっとずっと大切にしたい作品です。



◇ 結局、どういう人にオススメ?
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<画像は『私を球場に連れてって!』1巻より引用>

 西武ライオンズファンには、そりゃオススメです!

 ただ、元ネタが分からなかったとしても、「人が何かに夢中になっている姿」を眺めるのが好きな人なら楽しめる作品だと思います。こんなにも何かを大好きだと公言して、それでクラスメイトとケンカ出来るなんてこと、そうそうありませんからね。

 野球、素晴らしい! FA移籍の話はしないで!


【キンドル本】

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『DARK EDGE』全15巻紹介/男女6人の学園青春群像劇!ただし、放課後はゾンビとか出るよ!

【これさえ押さえておけば知ったかぶれる三つのポイント】
学園ホラー?バトル?いや、やっぱりこれは青春群像劇なんだ
誰にとっても謎に満ちた「夜の学校」は、想像以上に謎でいっぱいだった!
ガンガン人が死ぬシリアスな話なのに、明るさを失わないのが高校生らしい


【キンドル本】



【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:○(「それを乗り越える明るさがある」とは言え、人が死ぬシーンも多い)
・恥をかく&嘲笑シーン:×
・寝取られ:○(誰に感情移入するかにもよるけど、継子の話はやるせないかも)
・極端な男性蔑視・女性蔑視:△(雄シードと雌シードのちがいみたいな差異はある)
・動物が死ぬ:△(ネズミとか鳥とかは死んでたはず)
・人体欠損などのグロ描写:○(グロくはないけど、ゾンビの腕がもげたりはしょっちゅう)
・人が食われるグロ描写:○(直接的な描写はないけど、臓物を食うヤツがいるので…)
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:×
・BL要素:×
・ラッキースケベ:△(園部先生の存在そのものがラッキースケベ感ある)
・セックスシーン:△(エロイシーンではないが、子作りをするシーンはある)

↓1↓

◇ 学園ホラー?バトル?いや、やっぱりこれは青春群像劇なんだ
 この漫画は、相川有先生が1998年から2006年まで電撃コミックガオにて連載されていた作品です。同名のセガの格闘ゲームがありますが関係はありません。相川有先生は、最近だとアニメ化もされた『人外さんの嫁』の原作の人と説明したら分かりやすいですかね。

 元々私はこの漫画がすごく大好きで、自炊したチェックがてら最近また読み返したら「やっぱり面白いな」と思い返しました。全15巻という長い作品はなかなか人に薦めづらいかなーと思ったら、なんと現在は幻冬舎から文庫版が全5巻にまとめられていて、キンドルなどでも買えるそうな。
 全5巻なら勧めやすい!ということで、紹介記事を書くことにしました。全15巻のものをムリヤリ全5巻にまとめているので、全5巻とは言え「1冊580ページくらいある」んですけどね(笑)。逆に言うと、ストーリーが削られたりはしていないみたいです(カラーイラストは削られているっぽい)。

 しかし、この作品……大好きだという私からしても「どう説明して良いのか分からない作品」なのです。ネタバレを避けようとしたらなおさら。Wikipediaのページに書かれているジャンル名は「学園ホラー」ですが、「ホラー要素ある?」と思ってしまいますし。幻冬舎のジャンル分けだと「SF/ファンタジー」となっていて、「いやまぁファンタジーと言えばファンタジーだけどさ……」としっくりきません。


『学園が舞台なのだから、学園モノでイイのでは?』
「いや、でもゾンビとか化け物とか出てくるし……」
『じゃあ、やっぱり学園ホラー?』
「でも、ゾンビが怖いのは最初だけで、対抗手段ができたら『ゼルダ』の雑草みたいになるし」
『ということは、化け物を退治するバトルものか』
「退治もしていないような……戦闘シーンはあまり重視されていなくて、人の動きが重視されていると思う」
『なら、人間ドラマ?』
「そこまで重厚ではないな。基本的にはコミカルなノリで、ギャグも多いし」
『学園ホラーバトルヒューマンコメディ?』
「なんだよそのキメラ」

 とまぁ、2019年にもなって対談形式で説明したくなるくらい「ジャンルの説明が難しい」作品なんですけど、じゃあこの様々な要素の中で一番重要なのはどれなのかを自分が考えてみた結果―――主人公が一人ではない群像劇、なのかなと思いました。

 いや、主人公は「四辻学園に転校してきた高木九郎くん」なんですけど。

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<画像は『DARK EDGE』第1巻1話「閉じられた教室」より引用>

 同じように放課後にたまたま居残ってしまったクラスメイト5人――――「赤坂未紀」「吉国紘一」「清水朗実」「西脇類」「伊勢鉄三」もまた事件に巻き込まれて、一人一人が別々の考えを持って行動する群像劇になっているのです。要は「主人公が6人いる」と言っても過言ではないのだけど、この他にも「先生」だったり、「謎のジイ」だったり、色んなキャラがそれぞれの意思と目的を持って行動するのが最大の魅力かなと思います。



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<画像は『DARK EDGE』第6巻34話「NIGHT FEVER」より引用>

 私が好きなキャラは、女性陣を差し置いて、何と言っても吉国くんです。
 一見するとチャラチャラしたウェーイ系のキャラなんだけど、困っている人を放っておけない「イイヤツ」でありながら、ある感情を抑えられない「危うさ」も持ったキャラで……それがすごく人間臭いんです。人間って、「イイヤツ」なことと「危険人物」なことは矛盾しないよねという。

 メインキャラとなるクラスメイト5人は、どのキャラも「こういうキャラです」と一言では言えない複数の側面を持っていて、だからこそ「生きた人間」に見えるのだし。「生きた人間」として感じられるキャラだからこそ、一人一人考えて行動する“群像劇”が成り立つんですね。



 私が“群像劇”を殊更に好きなのは、主人公が1人だと物語が「主人公の思惑の通りになったか/ならなかったか」の範囲でしか動かないのに対して、主人公が6人もいるとそれぞれの思惑が交差して「予測不能な展開に進むストーリー」になるからです。『DARK EDGE』はその6人だけじゃなく、その他にも色んなキャラがそれぞれの思惑で動くため、「ハイハイ、今回はこういう展開ね」みたいなものがちっとも読めずに進むのです。

 ですが、そういう理屈じゃなくて……「色んな人間がいる」世界を見せてくれることは、「こういう人間でなければいけない」という圧力をかけ続けられる現実に生きていれば生きているほど愛おしく思うし、「色んな人間がいてイイんだ」と描いてくれるこの作品は優しく感じるのです。いや、ガンガン人が死んでいるけど。

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<画像は『DARK EDGE』第11巻64話「夜と泡」より引用>


 そう考えていくと、この作品に一番しっくり来るジャンル名は「学園を舞台にした群像劇(ただし、ゾンビとか化け物とかも出るよ!)」なのかなぁと思います。結局のところ、長い。

↓2↓

◇ 誰にとっても謎に満ちた「夜の学校」は、想像以上に謎でいっぱいだった!
 “群像劇”というのは下手すれば話があっちに行ったりこっちに行ったりなりがちなので、「登場人物Aのしたことが、まわりまわって登場人物Fに影響を与える」みたいな“キャラ同士の距離感”が大事だと私は思っています。
 そのため、「一つの建物」とか「一つの町」といった狭いエリアの中にキャラを集めるのがセオリーで、池袋を舞台にした『デュラララ!!』とか、渋谷を舞台にした『街』『428』とかがイメージしやすいかなと思います。


 『DARK EDGE』の場合は、舞台は「四辻学園」という一つの学校です。
 もちろん登場人物は学校の外に出ることもあるのですが、話の中心は「四辻学園」にあるので、その学校に通える範囲内で話は収まっています。学校という狭い空間の中でたくさんのキャラが動くので、それぞれのキャラが相互作用していくのです。

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<画像は『DARK EDGE』第1巻1話「閉じられた教室」より引用>

 この学校には妙な校則があります。
 「日没後は学校に残ってはいけない」し、巨大な門が閉じてしまうので「もし残ってしまったら夜明けまで出ることは出来ない」という。

 「高木九郎」「赤坂未紀」「吉国紘一」「清水朗実」「西脇類」「伊勢鉄三」の6人は、元々はそれほど仲のイイ関係でもない“ただのクラスメイト”でしたが(吉国と西脇は入学時からつるんでいたみたいだけど)……たまたまこの6人で放課後の学校に取り残されたことで、この学園の謎に近づいてしまうのです。


 つまり、この作品……小学生くらいの時なら、誰もが妄想したことがあるであろう「この学校は夜はどうなっているんだろう?」「先生達は実は何かの組織の一員で、子供達を何かの実験材料にしているんじゃないのか?」みたいなものを真剣に描いている作品だと思うんですね。

 誰にとっても謎の存在だった「学校の本当の姿」「先生の本当の姿」を暴いたら、「流石にそこまでのものは妄想してなかったぞ!」というものが出てきた作品というか。


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<画像は『DARK EDGE』第4巻20話「タイトロープ」より引用>

 ここまでの説明だと「やっぱりホラーで怖い作品なんじゃないの?」と思われかねないんで、園部先生を置いておきますね。



 ストーリー展開としては「謎が謎を呼ぶ」もので、連載リアルタイム時はなかなか真実が見えなくてもどかしい思いもしました。今考えればそれもそれでリアルというか、「末端の先生が学校のことを全部分かっているワケがない」し、「校長先生だって理事長の考えていることは分からない」し、「理事長にはなかなか会えない」し。めっちゃファンタジーな作品だけど、こういうところは現実の学校を暗喩しているように思えなくもない。

 ですが、完結している現在なら最後まで一気に読めますからね。
 流石にこの設定は後付けだよね?と思うところもなくはないですが、大きな破綻もなく「そういうことかー!」とどんどん真実に近づいていく様は爽快だと思います。個人的に、ラストシーンは本当秀逸だと思うんですよねぇ。


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<画像は『DARK EDGE』第9巻53話「一年B組 江田島 滋の一日」より引用>

 しかし、それはあくまで「夜の学校」の話です。
 「昼の学校」は、ちょっと授業が変わっていたり、体育とか音楽の授業がなかったり、部活もないっぽかったり、変なところもありますが生徒達にとってはちゃんと学校なんですね。壮絶な「夜の学校」の話の後には、平穏な「昼の学校」の話が描かれるし、この回みたいに「事情を全く知らない一般生徒の話」が描かれることもあります。

 この「昼」と「夜」の両面を交互に描いていく様は、『ペルソナ』っぽいと言っている人もいました。私は『ペルソナ』シリーズをやっていないので、その喩えがどれくらいピッタリなのかはよく分かりませんが(笑)。

↓3↓

◇ ガンガン人が死ぬシリアスな話なのに、明るさを失わないのが高校生らしい
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<画像は『DARK EDGE』第1巻5話「FIRE MAN」より引用>

 レビュー記事というのは、「漫画」だったり「ゲーム」だったり、本来なら深く考えなくても楽しめる作品たちを文章だけでその魅力を説明するという記事なので……どうしても、小難しい説明になってしまいがちです。この作品も、魅力を説明しようとするとどうしても理屈っぽくなってしまうのですが。


 この作品の最大の魅力(2度目)は、そういう小難しい説明や理屈を抜きにして、とにかく明るいところだと思うんです。


 私は1巻の上のコマを見て、この作品を好きだと直感しました。
 重い話もある、ガンガン人も死ぬ、作品が描いているテーマもシリアスなはず―――なのに、この作品は「怖がってる?」「うん、バッチシ!」という明るいノリを失わないんです。


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<画像は『DARK EDGE』第12巻69話「暁regeneration」より引用>

 ゾンビから隠れるシーンなのに、何だか楽しそう。
 清水さんは単なる「明るいキャラ」ではないのだけど、作品全体を明るくしてくれるムードメーカーで見てて楽しいキャラでした。赤坂さんとの女子コンビは良いバランス。


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<画像は『DARK EDGE』第7巻38話「SISTER・NOON」より引用>

 でも、他のキャラもやっぱり魅力的。
 相川先生の作風なのか、シリアスなシーンにもクスリと出来るコミカルさがあるのです。


 そのおかげで最終巻まで憂鬱にならずに楽しく読めるというのもありますし、実際「高校生がこういうことに巻き込まれたらこういうカンジになるかもな」とも思うんですよ。
 人が死んだからって、その後の人生をずっと暗く生きていくワケにもいかないし、ところどころに笑顔になれるところを見つけて笑って生きていくんじゃないかと思うんですね。特にこの学校の場合、頻繁に人が死ぬから、死人が出ることの感覚も麻痺してくるでしょうし。

 もし、この主人公達が大人だったら「こんなことをしている場合ではない」と学園から離れていったと思うんですが、彼らはまだ高校生ですから“モラトリアム期間”というか、「このワケの分からない事態を楽しんでしまおう」という感覚が生まれるのもリアルな感情かなと思います。



◇ 結局、どういう人にオススメ?
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<画像は『DARK EDGE』第13巻75話「daytime nightmare」より引用>

 「シリアス」と「コミカル」、「昼」と「夜」、「人間」と「化け物」、そして同じ人間であっても「ちがった考え方のクラスメイト」―――異なるものが組み合わさって出来ている作品なので、そのごちゃ混ぜ感を面白そうと思える人には是非オススメです。

 ホラー要素はそんなに強くないと思いますよ(ホラーというよりむしろバトル要素の方が強い)。

 んで、やっぱり「学校」という舞台は、そういう「色んなものが集まる場所」なんですよね。年が近いという理由だけで振り分けられたクラスメイトには、「頭のイイやつ」も「頭の悪いやつ」も「趣味が合うやつ」も「趣味が合わないやつ」もいるワケで―――「学校」という舞台装置を活かした、オンリーワンな“群像劇”だと言えると思います。“群像劇”が好きな人にももちろんオススメです!


【紙の本・幻冬舎文庫版】



【紙の本・電撃コミックス版】

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冨樫義博短編集『狼なんて怖くない!!』紹介/“ちょい外しの天才”の片鱗

【これさえ押さえておけば知ったかぶれる三つのポイント】
「王道」のように思われているかもだけど、実は「ちょい外し」こそが真骨頂
スポーツ、推理、ラブコメ、オカルトなど多様なジャンルの「ちょい外し」が楽しめる
天才が駆け出しだった頃に考えていたこと


【紙の本】
狼なんて怖くない!!―冨樫義博短編集1 (ジャンプコミックス)

【キンドル本】
狼なんて怖くない!! (ジャンプコミックスDIGITAL)

【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:△(どれも明るい話としてまとめられてるけど)
・恥をかく&嘲笑シーン:◎(『HORROR ANGEL』は共感性羞恥な人はキツイかも)
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:◎(ホラー映画などの描写として出てくる)
・人が食われるグロ描写:○(ホラー的な演出としてそれっぽいシーンはある)
・グロ表現としての虫:○(ホラー的な演出としてそれっぽいシーンはある)
・百合要素:×
・BL要素:×
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×

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◇ 「王道」のように思われているかもだけど、実は「ちょい外し」こそが真骨頂
 今日はいつもとは趣を変えて、漫画短編集の紹介です。
 紹介するのは、後に『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』で国民的人気を博す冨樫義博先生が1989年に発売していた短編集になります。1989年というのは、『幽☆遊☆白書』も『HUNTER×HUNTER』も連載開始になっておらず、連載デビュー作である『てんで性悪キューピッド』が始まった頃です。

 つまり、後に超人気作家になっていく冨樫義博先生が、まだ連載を持てていない駆け出しの頃に描いた読切漫画を集めた本なんですね。時系列順に並べると、こんなカンジになります。

・1986年:読切『センセーは年下!!』 投稿作、ホップ☆ステップ賞最終候補
 (『てんで性悪キューピッド』最終巻に収録)
・1987年:読切『ジュラのミヅキ』 投稿作、ホップ☆ステップ賞佳作
 (『てんで性悪キューピッド』最終巻に収録)

・1987年:読切『ぶっとびストレート』 投稿作、手塚賞準入選
・1987年:読切『とんだバースディプレゼント』 プロデビュー作
・1988年:読切『オカルト探偵団 PART1』
・1989年:読切『HORROR ANGEL』
・1989年:読切『オカルト探偵団 PART2』
・1989年:読切『狼なんて怖くない!!』
・1989~1990年:連載『てんで性悪キューピッド』 連載デビュー作
・1990~1994年:連載『幽☆遊☆白書』
・1995~1997年:連載『レベルE』
・1998年~:連載『HUNTER×HUNTER』


 短編集に収録されているのは、薄字になっていない6作品です。
 手塚賞に準入選した投稿作から、プロデビュー作、連載枠獲得へとつながったと思われる読切までが入っています。言ってしまえば、後に超人気作家になっていく前の「原点」が読める1冊なんですね。



 さて。
 『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』といった大ヒット作を生み出した人ということで、「冨樫義博という漫画家」を「王道ど真ん中」な作家だと思っている人も多いかと思うのですが……私は、冨樫義博先生は本質的には「パロディ作家」だと思っています。
 「パロディ」という言葉だと「コメディ」のように受け取られるかも知れないので適当ではないとしたら、「“漫画のお決まりごと”を読者が知っていることを前提に、そこから絶妙な具合だけ外す」のが得意な作家だと思うんですね。


 例えば、連載デビュー作である『てんで性悪キューピッド』―――
 「冴えない男主人公」の元に「可愛いヒロイン」がやってくるというド王道のラブコメなのだけど、その男主人公は「現実の女性に興味がない」ために、男主人公がエロに目覚めるように悪魔であるヒロインが教育するという作品です。

 代表作の一つである『幽☆遊☆白書』も、序盤は「幽霊などのオカルト事件を主人公達が解決していく」という王道作品でしたが、よく考えると「主人公も死んでいて幽霊」だとか「しかもヤンキー」だとか「喫煙・飲酒・パチンコ・カツアゲの常習犯」だとかはかなり異質な設定ですよね。

 バトル路線になってからも、「暗黒武術会編」は当時のジャンプでは多かったトーナメントバトルなのですが、「公平ではないトーナメント表」や「一度負けた選手が、再び登場してまた戦う」などトーナメントバトルというシステムを皮肉った展開も多かったですし。「魔界の扉編」の“領域”は、『ジョジョ』のパロディのつもりだったという話もありますし。

 『レベルE』は言うまでもなく、「王道だと思ったら外し」のオンパレードな作品ですよね。
 記憶をなくした宇宙人と、彼を保護した高校生―――という話だと思ったら全然ちげえ!みたいな話を詰め込んだ作品になっています。

 『HUNTER×HUNTER』はそう考えると、「王道だと思ったら外し」と「少年漫画的なカタルシス」をうまく両立した作品だと思うのですが……

(関連記事:“パクリ”と紙一重の“パロディ”だった『幽遊白書』



 閑話休題。
 冨樫先生の初期作品を集めたこの短編集を読むと、実はそういった作風はこの頃からずっと続いていることが分かるんですね。初めてこの短編集を読んだときにはさほど刺さらなかった作品も、『レベルE』や『HUNTER×HUNTER』を通過した現在に読んでみると「なるほど!『レベルE』っぽい!」とか「『HUNTER×HUNTER』に通じるものがある!」と気付くところが多いんですね。

 そういう意味では、「冨樫先生の作品は『HUNTER×HUNTER』しか知らない」というような人にも、その原点と片鱗が垣間見える1冊として覚えておいて欲しいなと思います。

↓2↓

◇ スポーツ、推理、ラブコメ、オカルトなど多様なジャンルの「ちょい外し」が楽しめる
 ここからは収録されている6作品の紹介です。
 漫画家として確立されていく流れを追うため、「収録されている順」ではなく「描かれたと思われる順」に紹介していきます。


◇ 『ぶっとびストレート』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『ぶっとびストレート』より引用>

 アマチュア時代に投稿された作品で、手塚賞準入選作品です。
 なんと「野球漫画」なんです。

 冨樫作品にはところどころに「野球」要素が垣間見えて、例えば『幽☆遊☆白書』のメインキャラである桑原和真はPL学園出身のKKコンビ「桑田真澄」と「清原和博」を足した名前で、敵の攻撃を打ち返す「首位打者剣」という技を使いますし。『レベルE』の筒井雪隆は野球部員ですし、『HUNTER×HUNTER』は「ナックル」や「シュート」といった野球の変化球の名前のキャラが登場します。

 そんな先生の原点が「野球漫画」というのは、『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』しか知らないような人にも感慨深いんじゃないかと思われます。
 ストーリーは、熱血派の直球ピッチャーである主人公と、知性派の変化球ピッチャーであるライバルが、どちらが部に残るかを賭けて紅白戦を行うというものです。ここまではまぁ「王道」というか「なくはない」話だと思うんですが、終盤の展開は「ええええええ!?そんなのアリ!?」と意外性バツグンで『HUNTER×HUNTER』に通じるものがあるかもと思わなくもないです。


◇ 『とんだバースディプレゼント』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『とんだバースディプレゼント』より引用>

 プロデビュー作となった読切です。
 ケンカとゲームが大好きな不良少年である主人公に、祖父が誕生日プレゼントとして「ゲームを疑似体験できるマシーン」を作ってあげるという話―――そうなんです、これってVRなんですよ。1987年の時点でVRのゲームを描いているんです。

 説明不要かも知れませんが、冨樫作品にはところどころで「VRゲーム」が出てきます。
 『幽☆遊☆白書』ではゲームマスター:天沼月人が「ゲームを現実化させる能力」を使って、主人公達とゲームで対決するという展開がありますし。『レベルE』ではカラーレンジャーが、バカ王子の作った『RPGツクール』のRPGの中にワープさせられる話がありますし。『HUNTER×HUNTER』ではMMORPGのような『グリードアイランド』というゲームの中に入って戦う話があります。

 しかし、プロデビュー作からして「VRゲーム」を描いていたというのは、『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』しか知らないような人にも感慨深いんじゃないか―――って話はさっき書きましたね(笑)。


 1987年というとファミコンの『ドラクエ』ブームの頃なので、そうした流行のファンタジー要素をこういった形で取り入れるのはすごい発想力ですし、捻りのある作品だと思います。オチも美しい。


◇ 『オカルト探偵団 PART1』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『オカルト探偵団 PART1』より引用>

 プロデビューから1年、「読者に受ける漫画とは何か」に悩んだ末にたどり着いたのが―――自分が面白いと思うジャンルをやるしかないと、「推理」と「オカルト」を足した作品になったという。

 「オカルト」要素は『てんで性悪キューピッド』でも『幽☆遊☆白書』でも『レベルE』でも垣間見えるのは言うまでもないですが、「推理」要素も言ってしまえば「読者の盲点を突く」ジャンルなので『レベルE』や『HUNTER×HUNTER』にも通じる要素ですよね。
 この2つのジャンルを足したことで「殺人事件の被害者が証言者になる」という現実にはありえない設定から始まり、それを活かした展開になっていくのが面白いです。

 「チョイ外し」の要素はあまりなく、「王道」とも言える作品だとは思うのですが……「幽霊」と「ヤンキー」と「事件解決」という組み合わせは、『幽☆遊☆白書』序盤のそれに近いものがありますし、この作品がちゃんと評価されたことで後々『幽☆遊☆白書』が生まれると考えると貴重な1作だと思います。


◇ 『HORROR ANGEL』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『HORROR ANGEL』より引用>

 収録されている6作品の中で、私が一番好きな作品です。
 ホラー映画が大好きで、ホラー映画をぶっ続けで観ていた主人公の元に「ホラー映画の精」がやってくるという話で……言ってしまえば「冴えない男」のところに「願いを3つ叶えてくれる妖精」がやってくるという王道展開なのですが。この「ホラー映画の精」は「ホラーにまつわることしか出来ない」ため、ちっとも役に立たないという。

 「王道ラブコメ」に「ホラー要素」を加えてチョイ外しに成功したところは、「推理」と「オカルト」を足した『オカルト探偵団』の進化形に思えますし、『てんで性悪キューピッド』や『幽☆遊☆白書』の序盤につながっていく作風なような気がします。



◇ 『オカルト探偵団 PART2』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『オカルト探偵団 PART2』より引用>

 『オカルト探偵団』が人気だったためか、その第2弾が描かれました。
 幽体離脱をした少年と出会ったオカルト探偵団が、彼の願いを叶える―――といったカンジに、『幽☆遊☆白書』の序盤にありそうな話です。探偵要素はどこに行ったんだ(笑)。

 でも、「王道に見えてチョイ外し」が最後の最後に上手く効いていて、人情ドラマとしてよく仕上がっています。「泣かせる話」を描かせても超一流なんだぜって片鱗を感じさせますね。



◇ 『狼なんて怖くない!!』
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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『狼なんて怖くない!!』より引用>

 短編集の表題作で、『てんで性悪キューピッド』直前の読切なので、この作品が評価されたことでの連載枠獲得になったのかなーと思われます。
 「冴えない男」が「クラスのアイドル」に恋する王道ラブコメながら、実はその男主人公が「満月の夜に狼になってしまう」狼男だというチョイ外しですね。『てんで性悪キューピッド』と同ジャンルの作品だと思いますが、エロ要素はあまりなく、ヒロインも超王道の清楚黒髪ロングで可愛い。

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<画像は『狼なんて怖くない!!』収録『狼なんて怖くない!!』より引用>

 あと、悪役として登場するのが「気に入った女子をモデルにエロ同人誌を描いちゃう漫画研究会」だというのが酷い(笑)。


↓3↓

◇ 天才が駆け出しだった頃に考えていたこと
 冨樫義博先生と言えば『幽☆遊☆白書』以降は超人気作家で、現在でもまだ(不定期とは言え)『HUNTER×HUNTER』を大人気連載中なワケですが……そんな大先生であっても駆け出しの頃があって、「どうすれば上手くいくのか」が分からずに悪戦苦闘した時期があって、そうして足掻いている中で自分の武器を見つけた瞬間があって。

 そうした時期の作品を収録したこの短編集は、そうした漫画作品そのものも貴重なものだと思うんですが、更に作者本人が各作品に「この作品はこういう意図で描きました」とコメントを付けているのがものすごく貴重だと思うんですね。
 それはまぁ、連載デビュー作となる『てんで性悪キューピッド』や『幽☆遊☆白書』初期の頃もそうなのですが、冨樫先生ってコミックスのスペースで近況報告をしてくれたり作品の狙いを解説してくれたり、ファンサービスに熱心だった作家だったんですよね。作品が大ヒットしていくに従って、徐々にガードが固くなっていってしまうものですが。


 そういう意味では「冨樫義博という漫画家」を知るためにはそうしたコメントこそが大事なのかもと思いますし、「天才作家様にもこういう時期があったのか」と思うことで勇気が湧くとも考えられます。



◇ 結局、どういう人にオススメ?
 「冨樫義博先生の作品のファン」なら、もちろん彼のルーツが知れて面白いと思うのでオススメです。「昔読んだけど、もう内容忘れちゃった」という人でも、『レベルE』や『HUNTER×HUNTER』を通過した今読み返すと新たな発見があるんじゃないかと思います。

 というか、私も随分前に買って一度読んだだけでベッドの下の奥底にしまって読み返していなかったのですが、今になって読んだら「こんなに面白かったのか!」と驚きましたからね。


 「冨樫義博先生の作品は一作品も読んだことがない」という人がこの記事を読んでいるのかは分かりませんが(笑)、そういう人であっても様々なジャンルの「ちょっと王道から外れた話」が好きな人ならオススメです。なんだかんだ、女の子が可愛いというのもポイントが高いです。それを活かした連載デビュー作が、かなりえっちな『てんで性悪キューピッド』だったというのも必然というか何というか。

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『満ちても欠けても』全2巻紹介/「いつもそこにあるもの」のために働く人々の物語

【これさえ押さえておけば知ったかぶれる三つのポイント】
「一つのラジオ番組」を中心としたオムニバスのストーリー
予算がなくても、華やかな場所じゃなくても、「ラジオ」が好きな人達が熱いんだ
オムニバスだからこそ、不器用な二人をいろんな視点で眺めるのにニヤニヤする


【紙の本】
満ちても欠けても(1) (KCデラックス Kiss) 満ちても欠けても(2)<完> (KCデラックス Kiss)

【キンドル本】
満ちても欠けても(1) (Kissコミックス) 満ちても欠けても(2) (Kissコミックス)


【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:×
・恥をかく&嘲笑シーン:×
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:×
・BL要素:×
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×

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◇ 「一つのラジオ番組」を中心としたオムニバスのストーリー
 気づいたら、半年ぶりの「漫画紹介」記事になってしまいました。
 紹介記事を書く気がなくなったワケでも、この間に漫画を読んでいなかったワケでもなくて、半年間「紹介したい!」と思えるような作品に出会えていなかっただけです。それくらい自分の好みの作品に出会うのは難しいのですから、みなさんがみなさんの好みの作品に出会う手助けになれれば嬉しいですね。

 ということで、半年ぶりに「紹介したい!」と強い衝動に駆られた今回の作品は、講談社の女性向け漫画雑誌KISS(と、その姉妹誌Kiss PLUS)にて2014年まで連載されていた、水谷フーカ先生の『満ちても欠けても』です。架空のAMラジオ局:ラジオ雛菊の深夜番組『ミッドナイトムーン(MNM)』を中心としたオムニバス作品です。


 「またオムニバスか……」とか思われていそう!
 半年前の「漫画紹介」記事に書いたのが一つの教室を題材にしたオムニバス作品で、今回は一つの職場を題材にしたオムニバス作品ですからね(笑)。でも、「自分好みの漫画」を紹介すると、どうしてもこうなってしまうという!


 ただ、この作品は「登場人物はそこまで多くない」し、「関係性も分かりやすい」上に、「オムニバス作品の魅力をちゃんと持った作品」なので―――オムニバス作品の初心者にもオススメです!

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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第1話「天羽日向の場合」より引用>

 この漫画の中心となるラジオ番組『ミッドナイトムーン』を作っているのは5人―――「パーソナリティ」の天羽日向、「放送作家」の中村慧尋、「ディレクター」の伊庭徹、「AD」の蒲田大輔、「ミキサー」の牛塚理子。
 普段ラジオを聴かない人は驚くかも知れませんが、ラジオ番組って(特に深夜番組なんかは)このくらいの少人数で番組を作っているのです。まぁ、帯番組(月曜から金曜日まで毎日放送する番組のこと)の場合は、曜日ごとにスタッフを替えるものじゃないのかとは思いますが!


 さて、「オムニバス作品」の定義なんですけど……
 一つ一つは「独立した短編」をまとめたものなのだけど、「短編集」とは微妙にちがって、全体を通して「一つの作品になっている」ものを指すそうです。この『満ちても欠けても』の場合は、『ミッドナイトムーン』という番組を中心に「今回は天羽さんが主人公」とか「今回は伊庭さんが主人公」といったカンジに、毎回主人公が変わる一話完結の話が続くというカンジですね。

 中心にいるのは天羽さんだったり伊庭さんだったりなのだけど、回によっては意外な人が主人公になって、その主人公だからこその新鮮な視点を見せてもらえるのが面白いのです。

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<画像は『満ちても欠けても』第2巻・第7話「小森有希の場合」より引用>

 例えば、この回なんかは「番組を作る側」でなくて、「番組を聴く側」が主人公なんです。
 「番組を作る側」の視点だけでなく、「番組を聴く側」の視点も見せてもらえることによって、『ミッドナイドムーン』という架空の番組が多角的に見えてくるというのがこの作品の魅力ですし―――「お仕事」を題材にしたマンガの中でも、ラジオ局を舞台にしている強みだなぁと思うのです。


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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第1話「天羽日向の場合」より引用>

 私の推しはこのコ!
 天羽さんの後輩で、新人アナウンサーの花岡奈津ちゃんです!

 黒髪のショートカットで、マジメで清潔感があって一生懸命で―――私の好みど真ん中です!あんまり出番ないですけど!


↓2↓

◇ 予算がなくても、華やかな場所じゃなくても、「ラジオ」が好きな人達が熱いんだ
 さて、この作品のタイトル『満ちても欠けても』なんですけど……みなさんは何のことだと思いますか?

 正直、このタイトルでは「ラジオ局を舞台にしたお仕事マンガ」とは想像できませんよね。でも、このタイトル―――最後まで読むと「すっげえ良いタイトルだったなぁ!」って思うんですよ。


 「満ちても欠けても」という表現で連想するのは、「月」ですよね。
 そして、この作品の中心にあるラジオ番組は『ミッドナイトムーン』です。「満ちても欠けても」というのは『ミッドナイトムーン』のことで、実際に作中でも「満月の夜も、新月の夜も、あなたにお届けするミッドナイトムーン」というセリフがあるのですが……

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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第6話「伊庭徹の場合」より引用>

 でも、それは『ミッドナイトムーン』に限った話じゃなくて……
 ラジオって「月」のようなものだと思うんです。


 いつもそこにある、でもそれを見上げる人と見上げない人がいて、見上げるのを忘れてしまうこともあるのだけど、そんな日でさえも「月」はちゃんと地球のまわりを回っている――――
 ラジオもそうだと思うんですね。毎日欠かさず聴いている人もいれば、一度も聴いたことがない人も今日は聴くのを忘れてしまったという人もいて。でも、そんな日でさえも「ラジオ」の電波は流れていて、それを作っている人達がいるんだ―――と。


 そして、どちらも。
 一人でそれを見上げていたとしても、何のつながりもない赤の他人が別々の場所で「同じもの」を見ている―――という不思議なものなのです。 


 満ちる日も、欠ける日も、
 「いつもそこにあるもの」を作り続ける人がいる―――
それを表すタイトルなんです。



 こんなタイトルを付けるくらいなのだから、作品全体が「ラジオへの愛」に満ちていて、登場する人達もみんな「ラジオが大好き」で……そんな作品だから、私のように元々ラジオが大好きな人にとってはもちろん、そうでない人にとっても「何かを大好きな人達がそれを仕事にしている様」を見るのは熱く感じるものがあると思うんです。


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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第1話「天羽日向の場合」より引用>

 テレビに比べれば、予算は少ない。人も少ない。
 設備もないし、制約も多い。


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<画像は『満ちても欠けても』第2巻・第11話「三木貴信の場合」より引用>

 この野球実況者の回は、神回すぎる。
 スイングも見えない、投球も見えない、ボールがどこにあるのかも見えない、選手の位置も見えない―――そんなラジオで「野球中継」をする意味があるのか。


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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第1話「天羽日向の場合」より引用>

 でも、この作品のキャラクター達は誇りを持って「ラジオ」を作るのです。
 予算がなかろうが、テレビほど華やかな世界ではなかろうが、彼ら・彼女らは誇りを持って「ラジオ」を作るのです。


 今までラジオなんて聴いたことがなかった人でも、この情熱を見ればきっとラジオのことも見直してくれるはず!
 確かに美化されているところはあると思うけれど、ニッポン放送のアナウンサーさんがネームチェックまでしてくれているみたいなので、「これがラジオの現場なんだ!」と知ることができると思いますよ!


↓3↓

◇ オムニバスだからこそ、不器用な二人をいろんな視点で眺めるのにニヤニヤする
 さてさて、この作品が「回によって主人公が変わるオムニバス作品」だという話は最初の項にて書きました。しかし、「それで回によって主人公が変わると、何が面白いんだ?」と思った人もいるかも知れません。それは言い換えれば「オムニバス作品の魅力とは何だ」という話なのですが、私は一つのものを色んな視点から眺めることが出来るのが最大の魅力だと考えています。


 例えば、この作品の中心にあるのは『ミッドナイトムーン』というラジオ番組なのですが、「パーソナリティの天羽さんとディレクターの伊庭さんの関係」が色んな人の視点から描かれるのが面白いのです。
 「天羽さんから見た伊庭さん」や「伊庭さんから見た天羽さん」はもちろん、「第三者から見た二人」として描かれる二人の関係性がとてもイイのです。


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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第4話「花岡奈津の場合」より引用>

 何も知らずにアンケートをとっている花ちゃんと、ぶちギレている伊庭さんと、「何やってんだーーー」と焦る『ミッドナイトムーン』のスタッフ達。


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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第5話「中村慧尋の場合」より引用>

 見習いスタッフが藪をつつきそうなところを、すんでのところで止めるうっしーさん。


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<画像は『満ちても欠けても』第2巻・第9話「小星拓斗の場合」より引用>

 周りには「もどかしい二人」と思われてるにも関わらず、時折見せる「熟年夫婦」感とかすごく好き!


 これがもし「ずっと天羽さんが主人公」とか「ずっと伊庭さんが主人公」の作品だったら、なかなか進展しないなーともどかしく思うだけだったかも知れないのですが……毎回主人公が変わるこの作品だと、脇役として出てくる「変わらない二人の姿」にニヤリとさせられるという!

 一番分かりやすい例が「天羽さんと伊庭さんの関係」なのでここで取り上げましたが、他のキャラも「その人が主人公の回」だけじゃなくて「他の人の主人公の回」に脇役として出ていて、そしてみんな「いつもそこにある月(=ラジオ)を見ている」というのがこの作品の魅力だと思うのです!



◇ 結局、どういう人にオススメ?
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<画像は『満ちても欠けても』第1巻・第4話「花岡奈津の場合」より引用>

 登場人物みんなが「ラジオが好き」で、好きなもののために一生懸命働く姿を描く作品です。「ラジオが好きだ」という人にはもちろんオススメなんですけど、そうでない人にも「(悪意のない)優しい世界が好きだ」という人には是非オススメしたい1作です。

 そう考えると「日常系アニメ」とかに近いのかも知れぬ。
 日々に疲れたときに読んで、ほっと癒されるような作品です。オススメです!

| 漫画紹介 | 17:51 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『うちのクラスの女子がヤバい』全3巻紹介/クラスメイト一人一人が主役の群像劇!

【三つのオススメポイント】
・「超能力」とは呼べない、心底しょーもない「無用力」のおかしさ
・主役が毎回変わることで、多角的に見えてくる「うちのクラス」
・「うちのクラス」と一緒にすごした1年間の果てに……


【紙の本】
うちのクラスの女子がヤバい(1) (マガジンエッジKC) うちのクラスの女子がヤバい(2) (マガジンエッジKC) うちのクラスの女子がヤバい(3)<完> (マガジンエッジKC)

【キンドル本】
うちのクラスの女子がヤバい(1) (少年マガジンエッジコミックス) うちのクラスの女子がヤバい(2) (少年マガジンエッジコミックス) うちのクラスの女子がヤバい(3) (少年マガジンエッジコミックス)


【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:×
・恥をかく&嘲笑シーン:△(教室が舞台なので多少は…)
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:△(グロくはないけど昆虫が出てくる回はある)
・百合要素:×
・BL要素:○(BLというよりトランスジェンダーの話がある)
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×


◇ 「超能力」とは呼べない、心底しょーもない「無用力」のおかしさ
 この漫画は、2015年~2017年に月刊少年マガジンエッジで連載されていた学園漫画です。とある高校の1年1組を、毎回主人公を変えながら描くオムニバス作品なのですが……この1年1組が変わっているのが、


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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』2巻8話「ふたば+れもん」より引用>

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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』3巻12話「リュウとランタンの灯り」より引用>


 女子だけ、「無用力」という特殊能力を持つ人が集められているという。
 
 正式名称を「思春期性女子突発型多様可塑的無用念力」と呼ぶもので、言ってしまえば「超能力」なのだけど、「無害」「役に立たない」もので「感情が昂るなどといったコントロールしにくい発動条件」「思春期が終わると失われてしまう」というしょーーーーもない能力なのです。

 「面白いことがあると下半身が光る」、「熱視線を向けると室温が真夏くらいに上がる」、「混乱するとモスキート音を発する」、「悪だくみをするとお好み焼きのにおいを発する」……もしこの漫画が『ハンター×ハンター』だったら「こんな能力でどうやって戦えばええねん」と言いたくなるものばかりなのだけど、だからこそこの作品ではこうした能力が「無用力」と言われ、大して問題視もされずに「個性」として尊重されているのです。


 この「非日常」が溶け込んだ「日常」の描かれ方は、『亜人ちゃんは語りたい』とかに近いかも知れませんし。
 人それぞれちがう「能力」を持っていると描かれるのは『とある科学の超電磁砲』とかにも近いかも知れません。あちらも能力者が全国から学園都市に集められている設定ですし、「たいやきの温度が下がらない能力」なんかは「無用力」っぽいですし(笑)。


 読者からすれば「次はどんなヘンテコ能力が来るのだろう」と毎回楽しみに出来ますし。
 でも、当人にとっては「無用力」も一つの「思春期の悩み」ですから、1話完結の「青春の1ページ」の話として面白いのです。「無用力」という設定はファンタジーではあるんですけど、思春期特有の「自分には何か特別な力があるはずだ」という万能感と「自分の力は世界の広さの中ではちっぽけなものだ」という無力感をメタファーのように表現しているのかなと思うのです。

 私達には「無用力」なんてないけれど、誰もが「無用力」のような何かは持っていたよね――――と。




◇ 主役が毎回変わることで、多角的に見えてくる「うちのクラス」
 しかしながら、私がこの作品を大好きな最大の要因は、何といってもこの作品が「1年1組」を舞台にした群像劇になっているところです。毎回主人公が変わるオムニバス作品というのは、一つの場所を舞台にすると群像劇になるのです。「1年1組」という狭い空間の中なら、なおのこと。


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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』1巻1話「ギッちゃんの目論見」より引用>

 例えば、第1話の主人公として登場する「ギッちゃん」こと擬星くんは……


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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』1巻3話「点子ポエティック」より引用>

 第3話では、この回の主人公である点子ちゃんにギャルゲーを貸す「チョイ役」として登場するという。1話完結のオムニバス作品ですから1話単体でも楽しめるのですが、両方を読んでいると「確かに第1話の擬星くんの行動は非モテっぽいところがあったけどギャルゲーヲタクだったからなのか!」と合点がいくのです。


 前のエピソードで主人公だったキャラが、後のエピソードでは脇役として登場したり。
 前のエピソードで脇役だったキャラが、後のエピソードでは主人公として登場したり。

 1巻の頃はこういうクロスオーバーがあまりないのですが、2巻・3巻と進んでいくにつれてこういうクロスオーバーが出てきてどんどん面白くなっていくのです。私がこの作品の中でトップ3に入るくらいに好きなエピソードである2巻の「メカブ現像」という回は、これを見事に活かした話なので、是非そこまで読んでほしい!「群像劇の面白さってこういうことかー」と分かってもらえると思いますから!


 しかし、こういった「オムニバス」であり「群像劇」にもなる作品って、読者が「このキャラは以前に出てきたあのキャラか!」と分からないとなりません。要は、キャラの描き分けが出来ていないとなりたたないんですね。
 名前は出しませんけど、別の作品で「オムニバス」であり「群像劇」にもなっている作品があったのですが……その作品は、すっごく絵が美しくて女のコも可愛かった一方で、どのエピソードの主人公も似たような見た目で「このキャラは以前に出てきたあのキャラか!」となるどころか「このキャラって前にも出てきたっけ……?」と、本来なら超面白いクロスオーバーがイマイチ楽しめませんでした。


 そこを行くと、この『うちのクラスの女子がヤバい』という作品は……いわゆる萌え系の可愛らしい絵柄ではないのですが、キャラごとのデフォルメがきっちり効いていて見分けのつかないキャラはほぼいません(雨々と沐念さんは若干厳しいけど……)「無用力」も含めたキャラクターの個性付けも強烈なので、印象にも残ります。

 この絵柄、この設定が、「クラスメイト一人一人が主役の群像劇」を描くのにベストマッチなのです。



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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』3巻13話「犬釘ノート」より引用>

 全然関係ないけど、犬君のこの台詞すげー好き。



◇ 「うちのクラス」と一緒にすごした1年間の果てに……
 「1年間」と書きましたけど第1話から読んでいくと「季節が二巡しているような……」とは思うのですが、まぁそこは置いといて(笑)。いろんなキャラを主役にして一つのクラスを描くと、「主人公を好きになる」というよりかは「このクラス全体を好きになっていく」ものです。

 コイツとコイツは仲が悪い、コイツは女子とは会話できない、コイツは誰と話しても相手を困惑させてしまう、コイツはクラスの中で浮いている―――それが全部好きになってくるんですね。
 そういう清濁が混在しているのが「クラス」だと思うし、自分が学生の頃はそれがイヤだったのに、大人になると「そこが面白かったんだなー」とその良さが分かるようになって、自分もこのクラスの一員になって1年間を過ごしたような気持ちになれるのです。



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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』3巻15話「悩める雨々」より引用>

 そして、その1年間の果てに……

 毎回主人公が入れ替わり、“神の視点”でクラスを見守ってきた読者にとって最終回は見事としか言えない回でした。1話完結のオムニバス作品ですけど、是非最初から最後まで通して読んでもらいたい!“神の視点”である読者しか気づかない「謎」がつながっていくところがたまらないのです。



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<画像は『うちのクラスの女子がヤバい』1巻5話「ミクニさんとおにぎり」より引用>

 読者しか存在を知らない謎の仮面の組織。
 コイツらの正体と企みとは……

| 漫画紹介 | 17:55 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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『百万畳ラビリンス』上下巻紹介/全2巻に詰め込まれた大冒険!

【三つのオススメポイント】
・「見ていられない」けど、見ていたくなる主人公:礼香の魅力
・超人気イラストレーターの画力によって描かれた世界
・ミステリーでもあり、SFでもあり、大冒険でもあり


【紙の本】
百万畳ラビリンス  上巻 (ヤングキングコミックス) 百万畳ラビリンス  下巻 (ヤングキングコミックス)

【キンドル本】
百万畳ラビリンス(上) (ヤングキングコミックス) 百万畳ラビリンス(下) (ヤングキングコミックス)

【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
この記事に書いたNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:△(礼香の過去のシーンはちょっとキツイかも)
・恥をかく&嘲笑シーン:×
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:×
・BL要素:×
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×


◇ 「見ていられない」けど、見ていたくなる主人公:礼香の魅力
 半年くらい前にコメント欄でオススメされていた漫画です。
 キンドルで少年画報社のポイント還元キャンペーンをやっていたので(現在は終了しています)、上下巻まとめて買って一気に読んでしまいました。すごく面白い!けど、これをネタバレさせずに紹介するのは難しい!なるべく物語の核心部分には触れないように紹介できるよう頑張ります。


 ストーリーは、ゲーム会社でデバッグのアルバイトをしている女子大生2人が、ある日突然「誰もいない謎空間」に迷い込んでしまって、そこからの脱出を目指すというものです。


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<画像は『百万畳ラビリンス』上巻 第2畳より引用>

 主人公は19歳の女子大生:礼香。
 黒髪ロングで、端正なお顔立ちで、スタイルも整っている「これぞ美人!」っていうキャラです。


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<画像は『百万畳ラビリンス』上巻 第3畳より引用>

 相方は礼香のルームメイトの庸子。
 礼香とは対照的にワイルドな風貌で、自分で自分を「ドブス」と卑下したりもするキャラです。


 一見すると「美女と野獣」みたいなコンビに見えるかもですが、読み進めれば読み進めていくほど、この2人の関係性は逆だと分かっていきます。礼香が後先考えずに突っ走って、気配りの出来る庸子がそれをサポートするのです。礼香の友達をやっていけるのは庸子しかいないよなぁ……と徐々に見えてくるあたりが、この作品にハマるポイントでもあります。



 さてさて。主人公たちが元々「ゲーム会社で働いていた」という設定だったり、礼香も庸子もゲーム好きなのでゲームの例えもところどころで出てきたりもすることから、この作品をゲームが好きな人にオススメ!みたいに言われているのを見かけるのですが……逆に言うと、「ゲームに詳しくないと楽しめないのでは?」と手に取らない理由にもされてしまうんじゃないかと危惧します。

 私の感覚では、この漫画を楽しむのにゲームに詳しいかどうかはあんまり関係ないと思います。
 というか、主人公たち(&作者さん)と私の「ゲームの好み」は全然ちがうので、私にも出てくるゲームの例えがよく分からなかったりしました。それでも、問題なく楽しめましたからね。


 ただ、「バグ」と「デバッグ」については事前に知っておいた方がイイかな……と思うので、その用語の意味だけ説明しておきます。
 コンピューターゲームは人間の作った「プログラム」によって動くのですが、時々作り手が想定していない動きをしてしまうことがあります。例えば、本来なら8月31日で終わる『ぼくのなつやすみ』で、特定の手順を踏むと「8月32日」に進めてしまうとか。これが「バグ」です。
 「デバッグ」というのはそうした「バグ」を発売前に見つける作業で、見つけられた「バグ」は報告されて修正されます。そのため「どうしたらバグが起こるのか」をありとあらゆる方法で探さなくてはならないので、バイトを雇ってありとあらゆる方法を試させるのです。発売されたゲームに残っているバグというのは、基本的にはこの「デバッグ」作業ですら見つけられなかったものです(面白いから仕様として敢えて残すものもありますけど)。


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<画像は『百万畳ラビリンス』上巻 第1畳より引用>

 礼香と庸子は、この「デバッグ」のアルバイトをしている女子大生で。
 特にこの礼香は、「バグ」を見つけるのが大好きで、「バグ」を見つける天才でもあります。


 この礼香の「バグを見つける天才」なところが、『百万畳ラビリンス』の魅力とも言えて……言ってしまえば、「バグ探し」というのは、ゲームを作った人が想定しないことを考える行為なんですね。「誰もいない謎空間」に迷い込んでしまった2人ですが、礼香は「バグ探し」で鍛えた自由な発想で次々と困難を突破していくのです。

 「常人には発想できない奇抜なアイディアで困難を突破する」「常人には理解されない感性ゆえに人とうまく関われない」―――礼香のキャラクターの特性だけを見れば、物語の世界では特に珍しいものではありません。諸葛亮公明のような天才軍師タイプとか、シャーロック・ホームズのような名探偵タイプとか、様々な形で登場します。

 しかし、「軍師だから頭がイイんですよ」「名探偵だから頭がイイんですよ」と言うのではなく、「デバッガーだから他人の盲点を突ける」「そこに楽しさを見出せるからデバッガーなんてことをやっている」というキャラ付けだからこそ、彼女は説得力を持ったキャラクターになっていると思うのです。私達と地続きの世界にいそうなキャラとして感じられるのです。



 礼香はすっごい美人ですし、下着姿や全裸姿になることもあるので「あー、美しや美しや」と拝ませてもらっているのですが。彼女の魅力は単なる外見上の美しさではなく、次はどんな「常人には発想できない奇抜なアイディア」を見せてくれるんだろうというワクワク感と、それと表裏一体の「常人には理解されない感性」とも言える壊れ具合のハラハラ感が混在しているところにあると思うのです。



◇ 超人気イラストレーターの画力によって描かれた世界
 説明が遅くなりましたが、この作品は2013年から2015年に当時の「ヤングコミックチェリー」、後に「ヤングコミック」に名前を戻した雑誌に連載されていた漫画です。作者はたかみち先生。

 たかみち先生……と言ってピンと来るかどうかは人それぞれだと思いますが、一番有名な説明をすれば「コミックLOの表紙を描いている人」です。


 コミックLOという雑誌は、茜新社から発売されている「小さい女のコを好きな人に向けたエロ漫画誌」なのですが。その表紙は創刊号からたかみち先生が担当していて、基本的にはエロではない「少女が普通に過ごしている風景を切り取ったイラスト」になっています。そのイラストの美麗さゆえに、表紙をまとめた画集も発売されているほど高く評価されているのです。

LO画集2-A -TAKAMICHI LOOP WORKS- (FLOW COMICS)
LO画集2-A -TAKAMICHI LOOP WORKS- (FLOW COMICS)


 つまり、超絵が上手いイラストレーターさんが描いている漫画なんです。
 まぁ……「絵が上手い」と言っても、「カラー絵のイラスト」と「白黒の漫画」では表現できるものがちがいますし、絵の上手いイラストレーターさんが描いた漫画を読んだら「読みづれええ」みたいなこともしょっちゅうですし、ましてや「ノスタルジーをこめた現実世界の少女のイラスト」と「謎空間からの脱出を目指す漫画」じゃ方向性が正反対だとも思うんですが。

 「カラーが白黒に」なっても、「現実世界が謎空間に」なっても、「少女が女子大生2人組に」なっても、全く問題ないくらい画力という暴力で圧倒されました。


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<画像は『百万畳ラビリンス』上巻 第7畳より引用>

 トビラ絵を引用するのはちょっと気が引けるのですが……
 たかみち先生の特徴でもある「光と影のコントラスト」も、白黒でしっかり表現されていますし。謎空間の立体的な把握や、そこにしっかり存在するキャラクターのデッサン技術も高く、終始「絵が上手いとこんな漫画が描けるんだなぁ……」と思いながら読んでいました。


 あと、先ほども書いたように礼香さんは頻繁に裸や下着姿を見せてくださるので、画力の高さというのはそういうところでもありがたいですね。




◇ ミステリーでもあり、SFでもあり、大冒険でもあり
 三つのオススメポイント、一つ目は「キャラクター」について語り、二つ目は「画力」について語ったので、三つ目は「ストーリー」について語りたいのですが……これが、ネタバレせずに語るのがとても難しいです。

 私はこの漫画の「ストーリー」がとても好きで、最後のあとがきに「本作はあらかじめ結末までストーリーを決めて制作し、ほぼそのまま描ききることができました。」とあるように、非常に美しく構成されたストーリーだと思うんですね。
 それは「伏線の張り方が上手い」みたいな分かりやすいものだけでなく、情報の出し方が上手いというか、キャラクターがどういう人間なのかをあらかじめここで見せておくことで後の言動に説得力がある―――みたいに1つ1つのシーンがすごく計算されていると思うのです。


 ただ、それを解説してしまうと思いっきりネタバレになってしまいますし。
 それは、この作品の魅力を大きく損なうことだと思うんですね。



 だから、なるべく物語の核心部分に触れないように、自分がこの作品の「ストーリー」で好きなところを考えてみたところ……私はやっぱりこの作品、「大冒険」なところに魅力があると思いました。

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<画像は『百万畳ラビリンス』上巻 第4畳より引用>

 “ある日突然「誰もいない謎空間」に迷い込んでしまって、そこからの脱出を目指す”という説明だと、『密室からの脱出』的な脱出ゲームを連想する人もいると思うんですが、礼香はこの状況を「オープンワールド」のように捉えているんですね。

 「オープンワールド」の定義はゲーム好きの間でも見解が分かれる難しい話ですが、ゲームにあまり興味のない人にも分かりやすい説明を考えると……脱出ゲームは「作り手が想定する解法を見つけるゲーム」で、(ここで礼香が言っている)オープンワールドのゲームは「どこに行っても自由で、何をしても自由なゲーム」です。

 例えば、最近発売されたオープンワールドのゲーム『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』では、一つの塔の登り方にも、「壁をよじ登る」だけでなく、「風船をたくさん付けて浮き上がる」とか、「思いっきり丸太を吹っ飛ばして自分もその上に乗る桃白白ごっこ」といった様々な方法があります。中には開発チームですら想定しない技を編み出す人もいて、開発チームを悔しがらせたなんて逸話もあるのですが……



 要は、礼香はこの「誰もいない謎空間」を、オープンワールドのゲームのような「大冒険の場所」として楽しんでいるんですね。「次はあっちに行ってみよう!」「次はこんなことをしてみよう!」と、それこそ私達が『ブレス オブ ザ ワイルド』を買って自由に遊んでいるみたいに、礼香はこの「誰もいない謎空間」で自由に遊んでいるのです。

 「どうしてこんな謎空間に閉じ込められてしまったのか」の謎に迫っていくさまはミステリーのような楽しさがありますし、不思議空間が解明されていく展開はSF的な面白さもあるのですが、私はこの作品は「冒険するワクワク感」を与えてくれる漫画だと思うのです。


 そして、重要なのは、そんな大冒険が「全2巻」というコンパクトなページ数に詰め込まれていることです。「何十巻もあるような漫画は読む時間がない」という忙しい人にも、「何十冊も漫画を買うほどお財布に余裕がない」という人にもありがたい「全2巻」ですよ!




 2017年5月27日現在、
 Pixivコミックで1話が試し読み可能ですし、
 ソクヨミだと3話の冒頭まで試し読み可能みたいです。

 興味を持ってもらえたなら、試し読みからでも是非どうぞ!

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